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山の仕事をしていると、シカに出会うことは珍しくありません。林道の先にじっと立っていたり、斜面をさっと駆け上がっていったり。その姿は美しいのですが、山で働く者にとって、シカは頭の痛い存在でもあります。
シカは、植えたばかりの苗木の葉や、育った木の樹皮を食べてしまいます。この記事では、シカの食害が森にどんな影響を与えているのか、林業の現場でどんな対策がとられているのか、そして庭や家庭菜園でできる対策をまとめます。
この記事でわかること
- 野生動物による森林被害の大きさと、シカの割合
- シカの食害で森に起きること
- 林業の現場でとられている対策
- 庭や家庭菜園でできるネット対策
- 山でシカに出会ったときのこと
森林被害の約7割はシカによるもの
林野庁の「野生鳥獣による森林被害」によると、令和7年度にシカやクマなどの野生鳥獣による森林被害の面積は、全国で約4千ヘクタールでした。このうち、シカによる枝葉の食害や樹皮はぎの被害が全体の約7割を占めていて、深刻な状況となっています。
森林被害を起こす動物はシカだけではありません。林野庁では、クマによる樹皮はぎ、カモシカやノウサギによる若い木の食害、ネズミによる根や樹皮の食害なども紹介しています。そのなかでも、シカの被害が特に大きいことがわかります。
シカの食害で森に起きること
植えた苗木が育たない
木を切ったあとの山に苗木を植えても、シカに葉や新芽を食べられてしまうと、苗木はうまく育ちません。何度も食べられると枯れてしまうこともあります。植えて、育てて、使う森の循環が、植える段階でつまずいてしまうのです。
育った木の樹皮がはがされる
シカは、ヒノキなど育った木の樹皮をはいで食べることがあります。樹皮をはがされた部分から木が傷んだり、木材としての価値が下がったりします。幹のまわりをぐるりと一周はがされると、木が枯れてしまうこともあります。
下草が消え、土が流れ出す
林野庁は、シカが森の下層植生(地面近くの草や低い木)を食べつくすことで、雨のときに土壌が流れ出すおそれがあることも指摘しています。地面をおおう草がなくなると、雨粒が直接土をたたき、土が少しずつ流されてしまうのです。
森の地面に草がほとんどなく、土がむき出しになっている場所を見かけたら、それはシカが多い森のサインかもしれません。
森で見つかるシカの痕跡
シカの姿を見なくても、森を歩いていると、シカがいることを教えてくれる痕跡に気づくことがあります。
- 樹皮がはがされた幹:地面から人の腰くらいの高さまで、幹の皮が帯のようにはがれている
- 先が切れた枝や草:シカは前歯で食いちぎるので、切り口がぎざぎざになりやすいと言われる
- 黒くて小さな丸いフン:まとまって落ちていることが多い
- けもの道:斜面に細い道が何本もついている
- 角をこすった跡:秋にオスが角を木にこすりつけて、幹が傷ついていることがある
こうした痕跡が多い場所は、シカがよく通る場所です。山を歩くときに注意して見てみると、森の様子が少し違って見えてきます。痕跡を見つけても、近くにシカ以外の動物がいることもあるので、むやみに奥へ進まないようにしましょう。
林業の現場でとられている対策
林野庁は、シカなどの被害を防ぐための方法として、次のようなものを紹介しています。
| 対策 | どんなものか |
|---|---|
| 防護柵(ネット) | 植えた場所をネットでぐるりと囲い、シカが入れないようにする |
| 食害防止チューブ | 苗木を1本ずつ筒状の資材で包み、葉や芽を守る |
| 防護テープ・枝条巻き付け | 育った木の幹にテープや枝を巻いて、樹皮はぎを防ぐ |

防護柵は、設置したら終わりではありません。倒木や雪で柵が壊れたり、すき間ができたりすると、そこからシカが入ってしまいます。定期的に見回って直すことも、林業の大切な仕事のひとつです。林業の仕事の流れは「林業の仕事とは?」で書いています。
また、柵で守るだけでなく、シカの数を適正に保つための捕獲も、国や自治体、地域の猟友会などによって進められています。
庭や家庭菜園でできる対策
山に近い地域では、庭の植木や家庭菜園の野菜がシカに食べられることもあります。家庭でできる対策の基本は、林業の現場と同じく「近づけない」ことです。
- 野菜や花壇をネットで囲う
- ネットのすそにすき間ができないよう、杭やピンでしっかり固定する
- 囲う高さは、シカが飛び越えにくい高さを目安にする
- 収穫しない野菜くずや落ちた果実を放置しない(動物を呼び寄せる原因になる)
ネットを選ぶときは、次の点を確認しましょう。
- 囲いたい場所の広さと高さに合った大きさか
- 網の目の大きさ(ほかの小さな動物も防ぎたいか)
- 支柱や固定用のピンがセットになっているか
- 雨や日光に強い素材か
市販の防獣ネットには、シカやイノシシなど対象の動物が書かれているものもあります。住んでいる地域でどんな動物が出るかを考えて選ぶとよいと思います。
なお、シカやイノシシなどの野生動物を、許可なく捕まえることは法律で禁止されています。被害がひどい場合は、自分で何とかしようとせず、市町村の農林担当の窓口に相談してください。
山でシカに出会ったら
山でシカに出会っても、むやみに近づいたり、食べ物を与えたりしないようにしましょう。人の食べ物の味を覚えると、人里に下りてくる原因にもなります。
秋はシカの繁殖の季節で、オスが気が立っていることもあります。写真を撮るときも、離れた場所から見守るのが基本です。森の動物の暮らしとどんぐりの関係は「どんぐりの種類と見分け方」、秋冬の山歩きの備えは「秋冬の里山歩きの持ち物リスト」で紹介しています。
よくある質問
Q. シカはなぜ増えたの?
A. 一般的には、暮らす範囲が広がったことや、狩猟をする人が減ったことなどが理由としてあげられています。地域によって事情は異なるので、くわしくは自治体の鳥獣対策の案内を確認してください。
Q. 庭のネットは、どれくらいの高さが必要?
A. 囲う場所や、地域に出る動物によって変わります。ネットの説明書きや、自治体の鳥獣対策の案内を確認してください。
Q. 森の下草がないのは、すべてシカのせい?
A. 木が混み合って森の中が暗いと、光が届かず下草が育たないこともあります。間伐で森に光を入れる意味は「木を減らすと森が元気になる?」で書いています。
シカと森、どちらも守るために
シカは森の生きものの一員で、悪者ではありません。ただ、数が増えすぎると、森の木や草、土にまで影響が出てしまいます。人とシカと森がうまく付き合っていくためには、守る工夫と、数を整える取り組みの両方が必要です。
山を歩いていてシカを見かけたら、ぜひ足もとの草や、木の幹にも目を向けてみてください。
Instagramでは、山で出会った動物の痕跡や森の写真も載せています。よければのぞいてみてください。
参考資料
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